e法廷(e-Court) ~書面による準備手続による試行~ #1

 今日は,平成31年8月某日  *1 。私は,東京都内でパートナー3名の小さな法律事務所を開いている弁護士である *2

 今日は,先々月,原告代理人として提起した訴訟の期日がある。この期日がいつもと違うのは,今年から試行が始まっているe法廷(e-Court)によって開かれることだ。*3

 以前から,当事者(代理人)のどちらかが管轄裁判所から遠方にいるような場合,当事者の一方は裁判所に出頭し,当事者の一方は電話(スピーカーフォン)で期日に出席する電話による弁論準備手続というのがあって,ときどき使われていた。

 しかし,今回,試行されているe-Courtは,双方当事者(代理人)が管轄裁判所の近くにいても,双方がウェブ会議で期日に出席し,裁判所には出頭しない,という点が新しい。今日の期日の相手方代理人も,東京都内に事務所があって,東京地方裁判所に出頭することに特段の差し障りがあるわけではないが,あえてe-Courtで期日を開催することとなった。

 ちなみに,今年から全ての期日がe-Courtで開かれることになったわけではない。裁判所が任意に選んだ事件だけ,テスト的にe-Courtで期日が開かれる。更に,全ての期日がe-Courtで開かれるわけではなく,裁判所が「次回はe法廷で」と決めた場合だけ,e-Courtでの期日となる。今回も,第2回口頭弁論までは裁判所で開かれたが,そこで裁判所が双方代理人の意見を聴いた上で,次回から書面による準備手続に付する決定を行った。そして,次回の期日 *4 については,e-Courtによる協議の形で開くこととなった。その次の期日を同じく書面による準備手続で行うかどうかは,今のところ未定である。なお,本来,書面による準備手続は,「当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるとき」に開くことができるが,今回の試行では「その他相当と認めるとき」を柔軟に解釈しているようだ。

 裁判所から書面による準備手続で期日を開くことについて意見を聴かれた際に,カメラ付きのパソコンを持っているかを確認された。e-Courtは電話で行うこともできるが,やはり顔が見えた方がよいし,ウェブ会議で行えば,提出された証拠や裁判所が作成した争点整理案などを,裁判所と双方当事者の三者で同じものを見ながら話ができるので,基本的にはウェブ会議を使ってやりたいとのことだ。そのためには,カメラ付きのパソコンとネットワーク接続が必要となる。今回は,双方代理人ともカメラ付きのノートパソコンを持っていたので,そこは問題とならなかった。

 第2回口頭弁論期日が終わった後,書記官室で,担当書記官からe-Courtを行うための説明があった。今回の試行では,誰でも簡単にウェブ会議を始められるように,appear.inというウェブブラウザでURLを入れるだけでウェブ会議に参加できるツールを使うようだ *5 。書記官から次回の協議期日のウェブ会議のURLが書かれた書面を渡された。URLは,「https://appear.in/touti-h31-wa-99999*6 と事件番号を簡略化したものだった。

 ただ,これだとこのURLを知っている人が誰でも期日に参加できてしまうので,裁判所から,参加者を双方代理人だけに限定するために,双方代理人にappear.inのユーザ登録をすることが求められた。appear.inでは会議室をロックして *7 限定されたユーザだけがウェブ会議に参加できるようにする機能がある。そのためには,参加者がappear.inのユーザとして登録されている必要があるのだ。少し面倒だが,裁判所まで往復しなくてよいというのも魅力的なので,私はappear.inのユーザ登録を行った。登録自体は簡単で10分くらいで完了した。登録したユーザIDを,裁判所と相手方代理人にFAXで連絡した。

 これで準備は完了。そして,今日の第1回の書面による準備手続の協議期日を迎えたわけである。

(つづく)

*1:今日は平成30年8月14日なので,空想ということになります。私は内閣官房主催の裁判手続等のIT化検討会のメンバーだったので,この問題に深い関心がありますが,今は特段の役職をしているわけではありません。したがって,この空想には特段の根拠はありません。弁護士会としての意見を反映しているわけでもありません。

*2:これはホント

*3:e-Courtとは,裁判手続のIT化(電子化,e裁判)の3要素(3つのe)と言われるものの一つで,e提出(e-Filing),e事件管理(e-Case Management)そしてe法廷(e-Court)の一構成要素です。

*4:書面による準備手続における「期日」は,正確には期日ではなく,協議です。しかし,ここでは分かりやすくするために敢えて「期日」と呼びます。

*5:appear.inを使うというのは全くの妄想です。例えばの話です。ちなみに,SkypeなどでもURL指定でIDを持っていない人を会議に招くことが可能となっているので,Skypeなどの選択肢もあります。

*6:新しい元号が分からないもので,hとなってますww

*7:ロックとは,appear. inの用語で,参加者を限定するという意味です。