e提出(e-Filing) ~メールによる直送~ #2

 電子メールでの直送が可能となったので,当事者は,訴状や答弁書で「送達場所」として今までの住所,FAX番号に加えて,メールアドレス(任意記載)を記載することとなった。

 そして,訴訟係属時に,裁判所から,裁判所のメールアドレス(部・係ごとに決まっている)と添付するファイルに掛けるパスワードが記載された書面が渡される。パスワードは,事件毎に決めることになっていて,裁判所,両当事者が共通のパスワードを利用し,第三者に漏えいすることは禁じられている。送付しようとする書面や証拠を圧縮する際に,このパスワードを掛ける。そうすると,もし誤送信したとしても,裁判所と相手方当事者しかパスワードを知らないので,送信内容が漏えいすることはないわけだ。

 ちなみに,圧縮するときにパスワードを付けるためには,Windowsに最初から付いている機能ではできないので,圧縮のためのアプリを使う必要がある。このアプリのインストールや使い方については,裁判所のサイトで学ぶことができるようになっている。弁護士会でも研修が行われた。*1

 受信の確認は,届いた電子メールに返信(裁判所と相手方双方に)することで行う。書面等を送付した側は,受信確認の返信メールが1営業日以上経っても届かない場合は,不着の可能性があるので,受信確認を返信してこない方に対して,電話やFAX等で連絡を取る。

 紙の証拠をスキャンしてPDFにする際の解像度は300dpi *2 以上とされている。何枚もある証拠だったり,カラーだったりすると,ファイルのサイズが大きくなってしまう。したがって,その場合は,何回かに分けてスキャンしたり,送ったりする必要がある。この辺りが電子メール直送の限界である。*3

 それと,準備書面等の書面を送るときには,押印をする必要はないことになった。押印しないといけないとなると,印刷→押印→スキャンという面倒な手間が掛かる。そこで,民訴規則が改正されて,押印の代わりに,陳述時に真正に作成されたものであることを述べるということとなった。したがって,Wordであればメニューの「ファイル」「名前を付けて保存」を選んで文書の種類を「PDF文書」として保存することで,スキャンせずにそのまま送れることになった。

 こうやって全ての事件記録が,相手方の分も含めてPDFで作成・取得できるので,記録の保管が楽になった。裁判所は,法律上,印刷して紙で保管する義務があるが,弁護士としては,もともと電子データで作成・取得しているので,紙で保管するという義務が課せられるわけではない。依頼者から紙で取得した記録を除き,電子データで保管できるので,保管スペースの節約になる。また,裁判所に行くときも,重い紙の記録を運ばなくてもいいので,便利である。もちろん長い書面などを読むときは,印刷して読めば良い。うまく使い分ければ良いのである。

 また,書面を作成するときも,相手方の文章をコピペすればいいので,引用が簡単になった。その結果,認否が書きやすく,漏れがなくなった。裁判所も,当事者の文章を引用して争点整理案を作成したりしているようだ。判決を起案するときも楽だろう。

 なお,電子メールが使えるのは,民訴法上,直送が許されている書面だけである。したがって,訴状,訴えの変更申立書といった直送できない書面は,従来通りである。

 それと,すぐに全ての人が対応できるわけではないので,従来通りのFAXによる直送も可能である。ただ,いずれはFAXによる直送は廃止の方向だということだが。

 しかし,電子メールによる直送が可能になったことで,少なくとも,当事者・代理人にとっては,e-Filingが実現したといっても過言ではない。電子メールで送るだけであれば,今までも多くの人がやってきたことだから,それほど抵抗感はないし,手間も少なくて,今までのように印刷して何部用意してなどとやっていたことを考えると,とっても便利である。

(一応,完)

*1:弁護士会で研修が行われることを保証するものではありません(汗)

*2:1インチあたりの点の数。高いほど細かく鮮明に表現されます。

*3:電子メールに添付して送るのではなく,裁判所がファイルを放り込める場所(サーバ)を用意すれば,こういう限界はなくなりますね。