e提出(e-Filing) ~本格導入~ #2

 e-Filingの具体的な使い方を描く前に,導入に至るまでの道のりについて,簡単に触れたい。

 平成30年からの勉強会,平成31年からの法制審を経て,立法自体は平成34年の通常国会で完了した。その後,システムの構築がなされ,平成36年の利用開始となったのである。

 法律改正の詳細には触れないが,民訴法にはもともとオンライン提出に関する規定自体は存在している(132条の10)。そこで,基本的な改正点は,デジタル保管に関する規定の導入であった。民訴法132条の10第5項には,「第一項本文の規定によりされた申立て等(督促手続における申立て等を除く。次項において同じ。)が第三項に規定するファイルに記録されたときは、第一項の裁判所は、当該ファイルに記録された情報の内容を書面に出力しなければならない。」との規定があるが,この項が削除され,新たに民訴法及び関連法令に,電子情報処理組織を利用して事件記録を保管し,それらを事件記録として扱う旨の規定が導入された。

 また,民訴法や民訴規則には,多くの「書面でする」「書面で提出」「書面で回答」といった「書面で~」という規定がある。もともと,一部の規定には「電磁的記録によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなす」的な補充規定が置かれていた。これらに準じて各条項に補充規定を置く方式もあり得た。しかし,それでは煩瑣に過ぎるので,新たに一条を追加し,「書面で」とある規定についてはすべて「電磁的記録を含むものとする」として,包括的に書面を電磁的記録に置き換えることを可能とした。

 また,オンライン提出に関しては,附則において4年の経過期間を置いた上で,オンライン提出でのみ提出を行うことができると規定されている。これはかなり大胆な試みであるが,内閣官房の裁判手続のIT化検討会取りまとめでも当初から言われていたことである。オンライン提出への一本化が裁判を受ける権利(憲法32条)を侵害しないようにする仕組みについては,後ほど触れたい。

 利用主体については,既にほぼ全ての弁護士が事件管理ポータルのIDを取得していたこと,弁護士は電子メールによる直送により事実上,e-Filingの基礎となる事件記録のデジタル保管を行っていたことなどの理由で,e-Filingに慣れている弁護士代理の事件から先行導入することとなった。ただし,先行導入の期間は1年間と短い。かつ,弁護士に代理されている本人も,ログインIDを取得し,提出された事件記録を事件管理ポータルから閲覧したり,e-Courtに参加したりすることが可能となっている。ログインIDをどのように発行し,管理がなされるのか,なりすましや改ざん防止などセキュリティ面の配慮についても,後ほど触れたい。

(つづく)