e提出(e-Filing) ~本格導入~ #4
訴え提起に関する情報が裁判所のサーバに到達すると,管轄裁判所の事件受付係の書記官が,到達したものから順次,訴状の審査を開始する。 *1 補正すべき箇所が見つかると,書記官が原告に対して,登録されているアドレスへの電子メールや,電話など,適宜の方法で伝える。補正に応じる場合は,状況に応じて,差し替え訴状や訴状訂正書を主張書面その他の登録ボタンからアップロードする。
訴訟費用(印紙代)は,「費用納付」ボタンをクリックし,事件番号を指定して行う。訴状提出時でも良いし,補正後に行っても良い。振込方法は下記の方法から選択することができる。予納郵券も同様である。
- Pay-easy番号が発行されるので,それを指定して振り込む。
- QRコードが発行されるので,銀行口座と連携したスマートフォンのアプリ(LINE Payなど)を利用して振り込む。
- 振込人に当事者名+事件番号を付して,指定の口座に振り込む。
- クレジットカードで支払う。*2
訴状が補正されて確定すると,第1回口頭弁論の日程を調整する。この際,システム上,手帳みたいな表示の日程候補日の一覧が示され,そこに◯を入れることで,簡単に候補日を登録することができる。
第1回口頭弁論の日程も確定すると,被告に対して送達がなされる。送達は,原則的には従来通りである。しかし,書記官が訴状や証拠を印刷して,郵便局に持ち込む手間はない。裁判所と郵便局が提携しており,裁判所のシステムから郵便局のシステムにデータを送ると,被告の送達先に最寄りの基幹郵便局で印刷がなされ,そこから郵送がなされる。したがって,従来よりも少し早く送達を行うことが可能となった。
また,被告が以前に訴訟を経験し,既にログインIDを取得している場合で,ログインID取得時に,電子送達に関する包括的な事前同意をしている場合は,紙で送達はなされず,訴状が提出されたことが,予め登録された電子メール,FAX,電話等の複数の手段により通知される。そして,包括的事前同意をしている被告が,ログインして,当該訴状を閲覧・ダウンロードしたときに,訴状送達の効果が生ずる。仮に,包括的事前同意している被告が,訴状送達の事実を知ったと言える状況が生じてから1週間以内に,訴状を閲覧・ダウンロードしないときには,1週間経過後のタイミングで訴状送達が擬制される。
訴状が送達された後の被告の対応は,ログインIDを有しているか,代理人を選任するか,によって左右される。場合分けをすると,下記のようになる。
- 代理人を選任する場合は,当該代理人が代理人のログインIDでログインし,事件番号を指定して,委任状のPDFをアップロードして,送達場所の指定を行い,以後の手続を代理人のログインIDで進行する。被告本人がログインIDを有していれば,被告本人もシステムに接続して,訴訟進行状況を確認したり,期日にe-Courtで参加できる。
- 代理人を選任しない場合で,被告本人がログインIDを既に有している場合は,被告本人がログインして,システム内で答弁書のアップロード等を行う。*3
- 代理人を選任しない場合で,被告本人がログインIDを有していない場合は,被告本人にログインIDを取得してもらい,あとは上記2と同様に進行させる。*4
訴状送達時に,同時に第1回口頭弁論の期日が通知され,呼び出しがなされることになることは,現行の運用と同じである。しかし,システム上,期日調整が容易になっているので,被告の対応によって下記のように柔軟に期日の再指定等が行われる。*5
- 被告が積極的に応訴・反論する場合,第1回口頭弁論までの反論が可能か否かを確認し,可能な場合は第1回口頭弁論の期日を維持する。不可能な場合は,第1回口頭弁論則スケジュールを行い,第1回口頭弁論から実質的な議論を行う。
- 被告が応訴するが,原告の主張を認諾したり,認諾的な和解を希望する場合は,第1回口頭弁論の前に,和解期日等を設定する。
- 被告が応訴しない場合,第1回口頭弁論を,e-Courtで行う旨の指定を行い,原告の出頭の負担を軽減する。もし被告が突然,出頭した場合は,原告はe-Court,被告は法廷という形で口頭弁論を行う。
(つづく)
*1:どこかで一括して訴状審査を行うといったことも考えられますが,代理人や当事者の個性を理解している管轄裁判所の書記官による審査の緻密さ等の利点も考慮すべきだと思います。「ああ,この先生か,ちゃんと見なきゃ」みたいな。
*2:この時点では導入されていませんが,破産事件などでe-Filingが使われるようになったときには,クレジットカードによる支払は制限されることになると思います。
*3:移行期には,弁護士代理の事件のみをe-Filingで扱うという運用も考えられ,その場合にはこの2以下のオプションはないことになります。
*4:被告本人にe-Filingを強制することになるので,対応できない被告本人の裁判を受ける権利の保障をどうするか,という問題があります。その辺は後日触れたいと思います。
*5:実は下記の第1回口頭弁論前後の期日の持ち方は,e裁判の問題というよりも,民訴法本来の問題であり,テクノロジーが貢献はするものの,テクノロジーがなければ成り立たない話ではないように思います。