e提出(e-Filing) ~本格導入~ #3

 e-Filingによる訴訟がどんな風に進むかを,時系列で追っていきたい。

 まず,e-Filingを利用するためには,裁判所システムのログインIDを取得する必要がある。弁護士は,弁護士会を通じて一斉登録を行った。弁護士以外の方がログインIDを取るためには,運転免許証などの本人確認書類を提出して,窓口で手続きを行う必要がある。当事者が事件記録に電子認証を施して提出することはないので,マイナンバーカード等の取得は不要である。*1 なお,法律事務所の事務職員にもログインIDが付与される。事務職員IDは,任意の複数の弁護士のIDと紐付けられていて,事務職員IDでログインをすると,弁護士に代わって,事件記録のアップロードやダウンロード等の処理が可能となる。

 訴訟を提起しようとする場合,まず,ログインIDとパスワードを使って,ログインを行う。そして,「新規事件登録」のボタンをクリックする。すると,事件の種類・審級・管轄等を選択する新規事件登録画面が出るので,「種類」にて通常訴訟,保全等の事件の種類を,「審級」にて一審,控訴審等の審級を,「管轄」にて訴えを提起しようとする裁判所を選択する。更に,事件名のテキストボックスに,適宜の事件名 *2 を入力する。これらを選択・入力したら,「当事者等の入力へ」ボタンをクリックして,当事者や訴額等を入力する画面に遷移する。*3

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 次の事件情報登録画面に遷移するので,そこで原告の情報,被告の情報*4 ,訴訟物の価額,訴訟費用等を入力する。*5 最後に,主張書面その他の登録ボタンを押して,ドラッグ&ドロップか,ファイルを選択する方式で,訴状や証拠説明書等をアップロードする。同様に,証拠の登録ボタンを押して,証拠を選択してアップロードする。*6

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 アップロードする訴状には,押印は不要である。もしも,なりすましによる提出や,偽造・変造があった場合は,第1回口頭弁論において,訴状陳述をやめて,訴訟自体を取り下げるか,変更等の手続きを行うことになる。また,訴状の内容自体も,今までと同様,自由に記載が可能である。*7

 事件に関する各種情報の入力が済み,訴状等の登録が完了すると,訴えの内容を確認する画面が表示される。この画面には,従来の訴状と同形式のPDFが表示されており,自分のPCに保存することが可能である。また,いったんこの時点で提出を留保して,よく確認した後に,訴え提起ボタンを押すことも可能である。内容に誤りがないことを確認して,訴えの提起ボタンをクリックすると,裁判所に対して,正式に訴えを提起したことになる。このクリックの事実が,裁判所のサーバに伝わった時点で時効中断などの効果が生ずる。もし途中のネットワークトラブル等により裁判所のサーバにクリックした事実が伝わらない場合は,訴訟提起の効果は生じない。

 もし,誤りなく操作をしたのに,裁判所の落ち度や不可抗力により裁判所サーバに訴え提起の操作の結果が伝わっていなかった場合には,自分が誤りなく操作したことを疎明して,時効期間の徒過などを防ぐことが可能である。その際,保存したPDFを疏明資料として提出することになる。PDFには作成時間がプロパティに記録されており,変更できないので,少なくともPDF作成時間は疎明可能である。あとは訴え提起ボタンのクリック時間であるが,これは原告側で各種資料を提出することが必要であるが,最も簡単なのは,クリック時に画面に表示されるポップアップウィンドウの写真や画面コピーを取っておくことである。このポップアップウィンドウさえ出ないときは,自分が操作していることを,例えば時報の電話を流しながら「仮事件番号◯◯について訴え提起ボタンをクリックしました。」と話して,それを録音しておく,といった方法が考えられる。

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(つづく)

*1:韓国のように当事者も事件記録に電子認証を施すという制度設計もあり得ると思います。ただ,期日において,書面は陳述,証拠は提出という手続が予定されており,偽造やなりすましによる提出は,そのタイミングで正すことができます。そこで,手続を複雑にしないためには,電子認証は不要であろうと考えました。

*2:事件名が自由入力であることはシステム化されても変わることはありません。

*3:仮事件番号で訴え提起等の効果が生ずるわけではありません。ここまで情報で今後の画面遷移の内容が変わるので,システム上,区切りを設けています。

*4:前の画面で事件の種類を保全とした場合は,ここで債務者の情報を入れることになります。また,この画面操作は代理人がログインして行っている前提なので,代理人の情報は,登録の際に入力済みであり,改めて入力する必要はありません。なお,本人訴訟の場合には,原告の情報はログインID登録時に入力済みなので,あらためて入力する必要はありません。また,原告もログインIDを有している場合は,原告のログインIDを選択するだけで,原告の氏名などを改めて入力する必要はありません。

*5:訴訟物の種類を登録させて,訴訟物の価額から訴訟費用を自動計算する方法も考えられます。しかし,本人には訴訟物の種類を正確に判断することが難しいし,弁護士が関与していたとしても訴訟費用の算定自体に争いがある場合がありますし,バリエーションが多すぎて,システム化に馴染まないと考え,ここでは訴訟費用も手入力する方式を取っています。しかし,未確定であるという前提で,システムが訴訟費用の候補を示すという方式も考えられると思います。

*6:多分,実際にはこんなにシンプルではないと思います。

*7:請求の趣旨や,請求原因などについても,入力項目をシステムで予め設定して,入力内容をある程度,定型化したり,入力ガイダンスを行って,入力ミスを減少させる,といったやり方も考えられます。しかし,通常訴訟は請求の趣旨や請求原因のバリエーションが多いので,仕様の設定と設計に非常な手間が掛かります。そこで,とりあえず第1バージョンとしては,請求の趣旨や請求原因については,今まで通り書面に自由記載という方式を仮定しました。しかし,取扱件数が多くて,請求の趣旨や請求原因が定型的な類型的訴訟や,家事・破産などの元々,入力項目が定型的な分野のある手続については,入力項目を細かく設定することも,第2バージョンとしてあり得る話だし,そのような形に移行するべきだと思います。