e提出(e-Filing) ~本格導入~ #6

 e-Filingとe-Courtに関して実施されているセキュリティ対策について触れておきたい。

 セキュリティには,機密性,完全性,可用性の3つの要素があるとされている。

 機密性は,情報が漏洩しないこと。これが一般人が最初に思い浮かべるセキュリティであろう。第三者が許可なくシステムに侵入して,情報を盗み見したりすることが防がれなければならない。そのためには,一般的には識別符号(ログインIDとパスワード)によるアクセス制御が行われる。

 e裁判システムでも,e-Filingやe-Courtを利用するためには,e-Case Managementで管理されているログインIDとパスワードを入力しないと,システムを利用できない仕掛けとなっている。ログインIDを取得するためには,運転免許証などの本人確認書類を裁判所に提示する必要がある。なお,ログインIDとパスワードを自分以外の人に教えることは禁止である。弁護士が事務職員に代理で操作をさせるためには,事務職員のためのログインIDを取得し,自分の代理にで操作できる権限を付与することになる。企業の法務担当者も同様である。

 また,ログインについては多重認証制度が取られている。ユーザが登録した携帯電話にショートメッセージ *1 で,認証コードが送られて,その認証コードをシステムに登録しないと,操作することができない。ただし,ログインの都度,多重認証するのではあまりに煩雑なので,ログインを100回するごとに多重認証を行うことになっている。

 完全性とは,システム内の情報が改ざんされないことを意味する。完全性を実現するために,一般的に執られる手段として電子証明の利用がある。ファイルに電子証明を付けておけば,第三者が事後的に改ざんしても,改ざんしたことが分かるので,改ざんによる被害を防ぐことができる。

 e裁判システムでも,ユーザが主張書面や証拠をアップロードする前に、ユーザの電子証明をファイルに付けて,改ざんを防ぐという方法が考えられる。実際,韓国やシンガポールのシステムでは,そのような方法が採られている。しかし,韓国やシンガポールは,もともと国民全員が電子証明書を取得しているというインフラがある。これに対し,日本ではマイナンバーカードの保有率が約10%と非常に低いままである。 *2 このような状況でユーザによる電子証明の付与を義務付けると,それが裁判を受ける権利の侵害にもなりかねない。また,主張書面は期日における陳述が,証拠は期日における提出が予定されており,もし改ざんがされていたら,その時点で陳述や提出をしなければよいということもある。そこで,日本のe裁判システムでは,ユーザが電子証明を付与する制度にはならなかった。

 しかし,e裁判システム内部での改ざん(侵入者や内部の不正)を防ぐために,また,裁判所が発した判決 *3 などの電子情報の改ざんを防ぐために,ユーザがe-Filingシステムに主張書面や証拠をアップロードした時点で,また,裁判官や書記官が書面を作成・登録した時点で,e裁判システムが自動的に電子証明を付与する仕組みとなっている。

 最後に,可用性とは,必要な時点で必要な人がシステムを利用できることである。外部から侵入されてシステムが破壊されたり,内部のミスでシステムが動かなくなったりすることを防がなくてはならない。

 e裁判システムでは,当然のことながら,外部のハッカーからの攻撃を防ぐためのファイアウォール等の物理的な措置,内部のミスを防ぐための教育や組織的な措置を講じている。バックアップも、どこにあるかは秘密であるが,地学的にも安全な場所に置かれているはずである。また,クラウドベースシステムなので,一箇所のCPUが停止しても,多重化されたシステムが,停止することなく稼働できる体制となっている。

(つづく)

*1:携帯電話以外にも,FAXや電話音声など,認証コードを受け取る方法は多様似設定できます。

*2:平成36年の時点でどうなっているかは未知数ですが。

*3:判決が改ざんされて,0を一つ増やされたり,減らされたりしたら,エラいことです。

e提出(e-Filing) ~本格導入~ #5

 訴訟が係属し,被告が代理人を選任した前提で,双方代理人の活動がどうなるかについて触れたい。

 訴訟が係属し,各種事件記録が提出されると,事件管理ポータルの「事件一覧」に当該事件の名称が表示される。

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 事件記録を見たり,提出したい事件をクリックすると,当該事件に関する画面に遷移する。

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 事件画面では,期日一覧,提出予定,提出された主張書面等,双方の証拠などが表示されている。そして,各期日横には,期日の日時がくると,スクリーンのアイコンが表示されるので,それをクリックすると,e-Courtの画面が表示される。主張書面や証拠については,それらをクリックすると,準備書面や証拠などが別ウィンドウで表示される。1つのパソコンに複数のモニタをつなげていれば,一方に主張書面を,一方に証拠を表示させるといったことも可能である。

 「書類提出」をクリックすると,提出したいファイルを選択するためのダイアログ画面がポップアップするので,提出しようと考えている書面のファイルを選択して「提出」ボタンをクリックする。又は,ドラッグ&ドロップの領域にドロップすることで提出することも可能である。書面の提出の効果は,この操作で生ずる。

 書面が提出されると,書面が提出されたことが,担当裁判官,担当書記官には,システム上の通知で,相手方当事者や代理人に対しては,電子メールやSMS,電話,FAXなど,登録時に指定された複数の方法で通知される。通知を受け取った相手方は,システムにログインを行い,当該書面を閲覧又はダウンロードする。その時点で,送達がなされたことになり,文書を発した者は,送達が完了したことをシステム上,確認することができる。

 もし,文書提出の通知がなされたのに,文書の閲覧やダウンロードをしないときは,文書提出の通知を行ったと確定できる日から1週間で送達が擬制される。なお,システムに文書をアップロードすることで,裁判所及び相手方に文書を送ったことになるので,直送という概念はなくなった。

 また,法改正により,デジタル文書を原本として取り扱うこととなっているので,裁判所は,提出された文書を印刷して,別途ファイリングする取扱いは行わない。ただ,紙で読んだ方が頭に入るという裁判官は,自らシステムから印刷を行うことになる。これは,当事者・代理人も同様で,印刷せずにモニタで読んでもいいし,印刷して紙で読んでも構わない。ただし,紙は正式な原本としての性格は有しておらず,あくまで仮のものということになる。

 システムには事件毎に事件記録を全文検索できる機能があり,裁判官や当事者・代理人は,全文検索することで容易に必要な文書に到達することができる。また,提出される文書は,それがPDF形式であっても,文字情報を埋め込んだ形で作成することが義務付けられているので,検索の対象となり得るし,コピペして引用したりすることも容易である。*1

(つづく)

*1:デジタル化の恩恵は,本質的にはこの辺にありますね。

e提出(e-Filing) ~本格導入~ #4

 訴え提起に関する情報が裁判所のサーバに到達すると,管轄裁判所の事件受付係の書記官が,到達したものから順次,訴状の審査を開始する。 *1 補正すべき箇所が見つかると,書記官が原告に対して,登録されているアドレスへの電子メールや,電話など,適宜の方法で伝える。補正に応じる場合は,状況に応じて,差し替え訴状や訴状訂正書を主張書面その他の登録ボタンからアップロードする。

 訴訟費用(印紙代)は,「費用納付」ボタンをクリックし,事件番号を指定して行う。訴状提出時でも良いし,補正後に行っても良い。振込方法は下記の方法から選択することができる。予納郵券も同様である。

  1. Pay-easy番号が発行されるので,それを指定して振り込む。
  2. QRコードが発行されるので,銀行口座と連携したスマートフォンのアプリ(LINE Payなど)を利用して振り込む。
  3. 振込人に当事者名+事件番号を付して,指定の口座に振り込む。
  4. クレジットカードで支払う。*2

 訴状が補正されて確定すると,第1回口頭弁論の日程を調整する。この際,システム上,手帳みたいな表示の日程候補日の一覧が示され,そこに◯を入れることで,簡単に候補日を登録することができる。

 第1回口頭弁論の日程も確定すると,被告に対して送達がなされる。送達は,原則的には従来通りである。しかし,書記官が訴状や証拠を印刷して,郵便局に持ち込む手間はない。裁判所と郵便局が提携しており,裁判所のシステムから郵便局のシステムにデータを送ると,被告の送達先に最寄りの基幹郵便局で印刷がなされ,そこから郵送がなされる。したがって,従来よりも少し早く送達を行うことが可能となった。

 また,被告が以前に訴訟を経験し,既にログインIDを取得している場合で,ログインID取得時に,電子送達に関する包括的な事前同意をしている場合は,紙で送達はなされず,訴状が提出されたことが,予め登録された電子メール,FAX,電話等の複数の手段により通知される。そして,包括的事前同意をしている被告が,ログインして,当該訴状を閲覧・ダウンロードしたときに,訴状送達の効果が生ずる。仮に,包括的事前同意している被告が,訴状送達の事実を知ったと言える状況が生じてから1週間以内に,訴状を閲覧・ダウンロードしないときには,1週間経過後のタイミングで訴状送達が擬制される。

 訴状が送達された後の被告の対応は,ログインIDを有しているか,代理人を選任するか,によって左右される。場合分けをすると,下記のようになる。

  1. 代理人を選任する場合は,当該代理人代理人のログインIDでログインし,事件番号を指定して,委任状のPDFをアップロードして,送達場所の指定を行い,以後の手続を代理人のログインIDで進行する。被告本人がログインIDを有していれば,被告本人もシステムに接続して,訴訟進行状況を確認したり,期日にe-Courtで参加できる。
  2. 代理人を選任しない場合で,被告本人がログインIDを既に有している場合は,被告本人がログインして,システム内で答弁書のアップロード等を行う。*3
  3. 代理人を選任しない場合で,被告本人がログインIDを有していない場合は,被告本人にログインIDを取得してもらい,あとは上記2と同様に進行させる。*4

 訴状送達時に,同時に第1回口頭弁論の期日が通知され,呼び出しがなされることになることは,現行の運用と同じである。しかし,システム上,期日調整が容易になっているので,被告の対応によって下記のように柔軟に期日の再指定等が行われる。*5

  1. 被告が積極的に応訴・反論する場合,第1回口頭弁論までの反論が可能か否かを確認し,可能な場合は第1回口頭弁論の期日を維持する。不可能な場合は,第1回口頭弁論則スケジュールを行い,第1回口頭弁論から実質的な議論を行う。
  2. 被告が応訴するが,原告の主張を認諾したり,認諾的な和解を希望する場合は,第1回口頭弁論の前に,和解期日等を設定する。
  3. 被告が応訴しない場合,第1回口頭弁論を,e-Courtで行う旨の指定を行い,原告の出頭の負担を軽減する。もし被告が突然,出頭した場合は,原告はe-Court,被告は法廷という形で口頭弁論を行う。

(つづく)

*1:どこかで一括して訴状審査を行うといったことも考えられますが,代理人や当事者の個性を理解している管轄裁判所の書記官による審査の緻密さ等の利点も考慮すべきだと思います。「ああ,この先生か,ちゃんと見なきゃ」みたいな。

*2:この時点では導入されていませんが,破産事件などでe-Filingが使われるようになったときには,クレジットカードによる支払は制限されることになると思います。

*3:移行期には,弁護士代理の事件のみをe-Filingで扱うという運用も考えられ,その場合にはこの2以下のオプションはないことになります。

*4:被告本人にe-Filingを強制することになるので,対応できない被告本人の裁判を受ける権利の保障をどうするか,という問題があります。その辺は後日触れたいと思います。

*5:実は下記の第1回口頭弁論前後の期日の持ち方は,e裁判の問題というよりも,民訴法本来の問題であり,テクノロジーが貢献はするものの,テクノロジーがなければ成り立たない話ではないように思います。

e提出(e-Filing) ~本格導入~ #3

 e-Filingによる訴訟がどんな風に進むかを,時系列で追っていきたい。

 まず,e-Filingを利用するためには,裁判所システムのログインIDを取得する必要がある。弁護士は,弁護士会を通じて一斉登録を行った。弁護士以外の方がログインIDを取るためには,運転免許証などの本人確認書類を提出して,窓口で手続きを行う必要がある。当事者が事件記録に電子認証を施して提出することはないので,マイナンバーカード等の取得は不要である。*1 なお,法律事務所の事務職員にもログインIDが付与される。事務職員IDは,任意の複数の弁護士のIDと紐付けられていて,事務職員IDでログインをすると,弁護士に代わって,事件記録のアップロードやダウンロード等の処理が可能となる。

 訴訟を提起しようとする場合,まず,ログインIDとパスワードを使って,ログインを行う。そして,「新規事件登録」のボタンをクリックする。すると,事件の種類・審級・管轄等を選択する新規事件登録画面が出るので,「種類」にて通常訴訟,保全等の事件の種類を,「審級」にて一審,控訴審等の審級を,「管轄」にて訴えを提起しようとする裁判所を選択する。更に,事件名のテキストボックスに,適宜の事件名 *2 を入力する。これらを選択・入力したら,「当事者等の入力へ」ボタンをクリックして,当事者や訴額等を入力する画面に遷移する。*3

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 次の事件情報登録画面に遷移するので,そこで原告の情報,被告の情報*4 ,訴訟物の価額,訴訟費用等を入力する。*5 最後に,主張書面その他の登録ボタンを押して,ドラッグ&ドロップか,ファイルを選択する方式で,訴状や証拠説明書等をアップロードする。同様に,証拠の登録ボタンを押して,証拠を選択してアップロードする。*6

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 アップロードする訴状には,押印は不要である。もしも,なりすましによる提出や,偽造・変造があった場合は,第1回口頭弁論において,訴状陳述をやめて,訴訟自体を取り下げるか,変更等の手続きを行うことになる。また,訴状の内容自体も,今までと同様,自由に記載が可能である。*7

 事件に関する各種情報の入力が済み,訴状等の登録が完了すると,訴えの内容を確認する画面が表示される。この画面には,従来の訴状と同形式のPDFが表示されており,自分のPCに保存することが可能である。また,いったんこの時点で提出を留保して,よく確認した後に,訴え提起ボタンを押すことも可能である。内容に誤りがないことを確認して,訴えの提起ボタンをクリックすると,裁判所に対して,正式に訴えを提起したことになる。このクリックの事実が,裁判所のサーバに伝わった時点で時効中断などの効果が生ずる。もし途中のネットワークトラブル等により裁判所のサーバにクリックした事実が伝わらない場合は,訴訟提起の効果は生じない。

 もし,誤りなく操作をしたのに,裁判所の落ち度や不可抗力により裁判所サーバに訴え提起の操作の結果が伝わっていなかった場合には,自分が誤りなく操作したことを疎明して,時効期間の徒過などを防ぐことが可能である。その際,保存したPDFを疏明資料として提出することになる。PDFには作成時間がプロパティに記録されており,変更できないので,少なくともPDF作成時間は疎明可能である。あとは訴え提起ボタンのクリック時間であるが,これは原告側で各種資料を提出することが必要であるが,最も簡単なのは,クリック時に画面に表示されるポップアップウィンドウの写真や画面コピーを取っておくことである。このポップアップウィンドウさえ出ないときは,自分が操作していることを,例えば時報の電話を流しながら「仮事件番号◯◯について訴え提起ボタンをクリックしました。」と話して,それを録音しておく,といった方法が考えられる。

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(つづく)

*1:韓国のように当事者も事件記録に電子認証を施すという制度設計もあり得ると思います。ただ,期日において,書面は陳述,証拠は提出という手続が予定されており,偽造やなりすましによる提出は,そのタイミングで正すことができます。そこで,手続を複雑にしないためには,電子認証は不要であろうと考えました。

*2:事件名が自由入力であることはシステム化されても変わることはありません。

*3:仮事件番号で訴え提起等の効果が生ずるわけではありません。ここまで情報で今後の画面遷移の内容が変わるので,システム上,区切りを設けています。

*4:前の画面で事件の種類を保全とした場合は,ここで債務者の情報を入れることになります。また,この画面操作は代理人がログインして行っている前提なので,代理人の情報は,登録の際に入力済みであり,改めて入力する必要はありません。なお,本人訴訟の場合には,原告の情報はログインID登録時に入力済みなので,あらためて入力する必要はありません。また,原告もログインIDを有している場合は,原告のログインIDを選択するだけで,原告の氏名などを改めて入力する必要はありません。

*5:訴訟物の種類を登録させて,訴訟物の価額から訴訟費用を自動計算する方法も考えられます。しかし,本人には訴訟物の種類を正確に判断することが難しいし,弁護士が関与していたとしても訴訟費用の算定自体に争いがある場合がありますし,バリエーションが多すぎて,システム化に馴染まないと考え,ここでは訴訟費用も手入力する方式を取っています。しかし,未確定であるという前提で,システムが訴訟費用の候補を示すという方式も考えられると思います。

*6:多分,実際にはこんなにシンプルではないと思います。

*7:請求の趣旨や,請求原因などについても,入力項目をシステムで予め設定して,入力内容をある程度,定型化したり,入力ガイダンスを行って,入力ミスを減少させる,といったやり方も考えられます。しかし,通常訴訟は請求の趣旨や請求原因のバリエーションが多いので,仕様の設定と設計に非常な手間が掛かります。そこで,とりあえず第1バージョンとしては,請求の趣旨や請求原因については,今まで通り書面に自由記載という方式を仮定しました。しかし,取扱件数が多くて,請求の趣旨や請求原因が定型的な類型的訴訟や,家事・破産などの元々,入力項目が定型的な分野のある手続については,入力項目を細かく設定することも,第2バージョンとしてあり得る話だし,そのような形に移行するべきだと思います。

e提出(e-Filing) ~本格導入~ #2

 e-Filingの具体的な使い方を描く前に,導入に至るまでの道のりについて,簡単に触れたい。

 平成30年からの勉強会,平成31年からの法制審を経て,立法自体は平成34年の通常国会で完了した。その後,システムの構築がなされ,平成36年の利用開始となったのである。

 法律改正の詳細には触れないが,民訴法にはもともとオンライン提出に関する規定自体は存在している(132条の10)。そこで,基本的な改正点は,デジタル保管に関する規定の導入であった。民訴法132条の10第5項には,「第一項本文の規定によりされた申立て等(督促手続における申立て等を除く。次項において同じ。)が第三項に規定するファイルに記録されたときは、第一項の裁判所は、当該ファイルに記録された情報の内容を書面に出力しなければならない。」との規定があるが,この項が削除され,新たに民訴法及び関連法令に,電子情報処理組織を利用して事件記録を保管し,それらを事件記録として扱う旨の規定が導入された。

 また,民訴法や民訴規則には,多くの「書面でする」「書面で提出」「書面で回答」といった「書面で~」という規定がある。もともと,一部の規定には「電磁的記録によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなす」的な補充規定が置かれていた。これらに準じて各条項に補充規定を置く方式もあり得た。しかし,それでは煩瑣に過ぎるので,新たに一条を追加し,「書面で」とある規定についてはすべて「電磁的記録を含むものとする」として,包括的に書面を電磁的記録に置き換えることを可能とした。

 また,オンライン提出に関しては,附則において4年の経過期間を置いた上で,オンライン提出でのみ提出を行うことができると規定されている。これはかなり大胆な試みであるが,内閣官房の裁判手続のIT化検討会取りまとめでも当初から言われていたことである。オンライン提出への一本化が裁判を受ける権利(憲法32条)を侵害しないようにする仕組みについては,後ほど触れたい。

 利用主体については,既にほぼ全ての弁護士が事件管理ポータルのIDを取得していたこと,弁護士は電子メールによる直送により事実上,e-Filingの基礎となる事件記録のデジタル保管を行っていたことなどの理由で,e-Filingに慣れている弁護士代理の事件から先行導入することとなった。ただし,先行導入の期間は1年間と短い。かつ,弁護士に代理されている本人も,ログインIDを取得し,提出された事件記録を事件管理ポータルから閲覧したり,e-Courtに参加したりすることが可能となっている。ログインIDをどのように発行し,管理がなされるのか,なりすましや改ざん防止などセキュリティ面の配慮についても,後ほど触れたい。

(つづく)

e提出(e-Filing) ~本格導入~ #1

 平成36年4月某日 *1 ,いよいよe-Filingシステムがリリースされ,裁判所に対して,訴状の段階からデジタル情報で書面と証拠を提出できることとなった。裁判所においても,デジタル情報で提出された書面と証拠については,紙にするのではなく,デジタル情報をそのまま原本として取り扱い,保管することが可能となった。

 既に,電子メールによる直送は実現しているので,裁判所・当事者間で大多数の書面及び証拠がデジタル情報でやり取りされていたが,

  1. 申立て段階の訴状等もデジタル情報になったこと
  2. 裁判所において紙ではなくデジタル情報で保管することとなったこと
  3. デジタル情報のやり取りが,電子メール添付ではなく,裁判所が提供する事件管理ポータルサイトにファイルをアップロードする方法に変わったこと
  4. 裁判所が作成する判決書などの文書もデジタル情報に変わったこと

この4点が大きな変化である。

 これにより,当事者は,自分が当事者となっている/なっていた事件(弁護士は自分が代理人となっている/なっていた全ての事件)で扱われている全ての事件記録を,裁判所の事件管理ポータルサイトで確認することが可能となった。*2 これにより相手方の書面の記載をコピペして,自分の書面を作成することが容易になり,認否などが簡単にできるようになった。

 具体的には,既に運用されていた事件管理ポータル画面に,新規事件登録のボタンが追加され,ここから新規事件の情報を登録し,訴状等の申立書をアップロードできることとなった。既存事件の書類提出も,書類提出ボタンのクリックや事件一覧から該当事件を選択することで可能となった。相手方から提出される書面や証拠も,送達書類確認ボタンをクリックすることで可能となっている。なお,提出がなされたことは,システムに登録しているメールアドレスへのメール送信や,携帯電話に対するメッセージ送信で確認することが可能である。

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 裁判官や書記官も,自分が担当している/担当した全ての事件の事件記録を検索したり閲覧したりすることができるようになった。また,他の裁判官が担当した事件についても,判決など一定の範囲については,全て検索・閲覧の対象となっているほか,一定の手続を経て,事件記録もすべて閲覧できる。

 また,上級審への移審に際しても,紙の事件記録を引き継ぐのではなく,上級審でデータを引き継ぐ(現実には参照する)だけとなった。例えば,地裁による文書提出命令却下決定に対する即時抗告を高裁が審理する場合でも,紙の事件記録を高裁に移す必要はなく,高裁から事件記録を参照するだけで良いこととなった。

(つづく)

*1:妄想です。

*2:三者の事件についての閲覧や謄写については,別途触れたいと思います。

e事件管理(e-Case Management) ~一部導入~ #4

 e-Case Managementシステム,e-Courtシステムの利用が開始されると,これを使わないと裁判を受けられないのか?という問題が生ずる。

 しかし,少なくともe-Case Management及びe-Courtに関しては,これを使わないと裁判を受けられない,ということはない。e-Courtで期日を開くか否かは,当事者の意見を聴いて,裁判所が判断する。その際,機器がないことなどを理由に当事者がe-Courtでの期日に反対した場合,それにも関わらず,裁判所がe-Courtでの実施を強行する事態は考えられない。

 e-Courtを一切利用しない事件となると,e-Case Managementシステムにアクセスしなくても,訴訟に参加することは可能である。したがって,e-Case Management,e-Court両方とも全く使用しないでも,裁判を受けることは可能である。したがって,これらのIT化のシーズが,憲法上保障される裁判を受ける権利を侵害するわけではない。

 e-Courtの利用が非弁活動を助長させないか,という問題もある。*1 実際に法廷で期日を開く場合,弁護士以外の人が活動することは事実上難しいが,e-Courtの場合,カメラを通して期日に参加するので,画角に入りきらない場所に弁護士以外の人が隠れていて,指示を出したりすることが考えられるからである。

 おそらく現実的には,指示を受けてしゃべる場合には,視線の動きや話す内容の不自然さなどから,指示する者の存在がある程度は分かるのではないかと思われる。問題は,指示を受けていると思われる場合に,遠隔地にいる出席者に対して,どのようにして訴訟指揮権を及ぼすか,という問題であろう。おそらく,その場で第三者を排除することは難しいと考えられるので,非弁活動の兆候が感じられる場合は,裁判所の裁量で,期日を打ち切り,次回からe-Courtではなく法廷での期日に切り替えることが考えられる。

(一応,完)

*1:弁護士法72条は「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」と定めています。

e事件管理(e-Case Management) ~一部導入~ #3

  事件管理ポータルの事件一覧の中から,事件を選んでクリックすると,その事件毎の画面が表示される。

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 未だe-Filingは導入されていないので,当該事件の主張や証拠などに関する情報は表示されておらず,期日に関する情報や提出予定に関する情報のみが表示されている。*1

 「期日一覧」には,既に開かれた期日,これから開かれる期日の一覧が表示されている。これから開かれる期日については,e-Courtが開催可能な時間(期日の日時が来て,裁判官がパソコンの期日開始のボタンをクリックしたとき)になると,期日の項目の横にモニタのアイコンが表示される。当事者や代理人が,それをクリックすると,e-Courtの画面が表示される。

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 e-Courtの画面は,ブラウザの別のタブに表示されるようになっており,タブを分離させると,フロートさせて独立したウィンドウとして扱うことが可能である。したがって,相手方の顔が表示さているウィンドウは小さくするとか,画面の表示スペースに合わせて自由にウィンドウを配置することができる。裁判官が争点整理案を示したときは,それを画面一杯に表示して,顔のウィンドウは最小化するといったことも可能である。複数の画面を使っていたりすると,書面は大きなモニタに大写しして,顔は別モニタに集中して表示させるなんてことも可能である。*2

 なお,音声については,従前と同様であるが,パソコン備付けのマイクだと,音声以外の雑音を拾ってしまい,聴き取りづらいので,できる限り,マイク付きのイヤホン *3 を利用することが推奨されている。

 「提出予定」には,当該事件で提出すべきものとして合意した書面や証拠の標目や提出期限が表示されている。期限を徒過していると,これが赤色に変わるようになっている。また,期限を徒過すると,徒過したことを警告する電子メールが,ログインIDと紐付けて登録したメールアドレスに届く仕組みとなっている。

 なお,e-Courtが開かれる予定の期日は,保全の審尋である。民事保全法は,7条で「特別の定めがある場合を除き、民事保全の手続に関しては、民事訴訟法の規定を準用する。」と規定しており,口頭弁論や審尋の開催についてe-Courtを除外する特段の規定を設けていないので,民事訴訟法でe-Courtが導入されたことによって,保全の審尋や口頭弁論においてもe-Courtを利用することが可能となった。保全の審尋は迅速な開催が要求され,その場で書面の訂正を求められることも多いので,迅速に開催でき,事務所で書面の訂正を行うことができる保全の手続に,e-Courtは非常にフィットしている。

(つづく)

*1:メール直送で,訴状を除くほとんどの主張や証拠がデジタル情報で存在しているとは思うのですが,この時点では,デジタル情報を原本とするという法律が存在しないので,裁判所にとってデジタル情報は原本になる前の仮の姿ということになります。仮の姿であるデジタル情報を裁判所のサイトで開示することは困難だろうなあ,と思います。ただ,仮であろうが何であろうが,サイト上で確認できたら,裁判所,弁護士,当事者それぞれの間の意思疎通が非常にやりやすくなって,便利だろうなあと思います。

*2:大きな画面のモニタの価格もすごく下がってきているので,これからは複数モニタが便利ですね。

*3:iPhoneなんかを買うと,ただで付いてくるやつですね。

e事件管理(e-Case Management) ~一部導入~ #2

 裁判所の事件管理ポータル画面には,「自分」の事件のみが表示されている。これは,ユーザー管理がなされていて,弁護士や当事者ごとに付与されたIDでログインしているから実現していることだ。

 e-Case Managementが導入されるまでは,e-Courtを利用するために,事件毎に独自のURLを発行して,事件の関係者以外はアクセスできないようにしていた。このURLにアクセスする者が,真に当該事件の関係者(当事者本人や代理人)であることを確認するためには,事件の最初に写真付き身分証などで確認し,あとは画面に映っている顔や聞こえてくる音声で判断していた。*1

 しかし,e-Case Managementが導入されると,最初に事件の当事者・代理人 *2 になったときに,裁判所に本人確認書類を提出して,ログインIDの発行を受けることとなった。それにより本人確認は済んでいるので,その後,事件毎には本人確認を行う必要はなくなる。

 事件管理ポータルの提供開始に当たっては,ログインIDを他人に使用させないといったことを定めた規則が制定され,利用者がこれらのルールに反すると過料等の制裁が科されることになっている。利用停止は,裁判を受ける権利を侵害する恐れがあるので,慎重な判断が求められる。

 特に弁護士のログインIDを利用停止にすると,仕事ができなくなってしまう恐れがあるので,慎重な運用が求められる。現在,弁護士の懲戒は,弁護士会が独占的に行っており,業務停止などは弁護士会の判断でのみ課すことができる。しかし,裁判所がログインIDの停止を独自に判断できるようになると,懲戒に類似する作用を果たすことになってしまう。そこで,規則において,弁護士に対して過料や利用停止の処分を課す場合は,弁護士会の同意を得ることが必要とされている。

 また,ログインIDの漏えいによる第三者のなりすましや,本人が第三者にログインIDを使用させる事態を防ぐために,登録時に本人の携帯電話番号やe-Courtを利用する場所の電話番号を登録させて,二重認証する仕組みも用意されている。

 なお,これまでの記載でも当然のこととして,当事者本人がログインIDを取得できると書いてきた。これは本人訴訟のときにログインするということ以外に,代理人が付いているときも,当事者本人としてログインして,代理人が追行している訴訟の状況を確認できるということを意味している。今までは,代理人が本人に代わって期日に出席していた。しかし,本人がログインIDを有することとなり,かつ,e-Courtにより期日出席の負担も軽減したので,期日に代理人のみが出席するのではなく,本人も同時に出席することが容易になり,実際にそのような事件が増えている。

 企業の場合は,企業のIDに派生する担当者IDが発行されていて,法務担当者がそのIDでログインし,期日に出席することが可能となる。結果として,裁判官,原告,原告代理人,被告,被告代理人の合計5地点をつなぐe-Courtも行われることとなった。

 e-Court及びe-Case Managementの導入により,当事者本人が,以前よりも簡単に事件情報に触れたり,期日に参加することが可能になり,訴訟の透明性が著しく向上することになったのである。

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 しかし,弁護士であれば誰しも経験のあることであるが,交渉の前面に立つ者として,相手方と腹を割って話さなければ,交渉がまとまらないということもある。そういう場合にも,常に依頼者から監視されているのでは,十分な協議ができない。したがって,裁判官の判断で,5地点をつないでいる回線を,随時,3地点だけをつなぐ様に変更して,当事者を一時的にe-Courtから退席させることも可能な仕組みとなっている。

(つづく)

*1:弁護士に関しては,現在,本人確認など行われていません。e-Courtやe-Case Managementが始まっても,弁護士であればということで,本人確認などしないかもしれません。

*2:弁護士については,弁護士会を通じて一斉登録するということも考えられると思います。

e事件管理(e-Case Management) ~一部導入~ #1

 平成35年4月某日 *1 ,e事件管理(e-Case Management)が一部導入されることになった。

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 e-Filingが始まっていないので,e-Courtの窓口としての機能が中心であるが,画期的なものだと思う。*2

 裁判所のサイトに行くと,「事件管理ポータル」という新しいタブが設置されている。 *3 これをクリックすると,自分が担当している事件の一覧や,自分が担当している事件に関する期日や提出期限に関するスケジュールが表示されている。「お知らせ」の欄には,裁判所からのお知らせの他に,提出期限を徒過してしまっている書面に関する警告が赤字で示されていたりする。*4

 「事件一覧」には,自分が代理人を務めていて現在係属中の事件の一覧が表示されている。弁護士でなければ,自分(法人を含む。)が当事者となっている事件の一覧が表示される。これらの個々の事件をクリックすると,それらの事件に関する画面に遷移する。

 「スケジュール」には,自分が代理人を務めている事件(弁護士でなければ自分が当事者である事件)に関する将来のイベント(期日や提出〆切)が表示されている。期日の項目については,それをクリックするとe-Courtの画面が表示される。*5 今までは,次の期日や〆切は,裁判所で口頭でやり取りするだけだったので,勘違いや手帳への記入間違いなんかが生じる恐れがあったが,裁判所が一元的に予定を管理してくれると,行き違いが生じないので,ありがたい。

(つづく)

*1:妄想です。

*2:裁判手続のIT化検討会の取りまとめでは,フェーズ3でe-Filingとe-Case Managementを実現することとなっており,e-Filingの前にe-Case Managementを構築することはない前提となっています。しかし,個人的には,e-Case Managementは,必ずしもe-Filingとセットでしか機能しないものではないと思っています。

*3:決して「こうなる」というわけではありませんので,誤解のないように。

*4:提出期限は守りましょう。

*5:恐らく,ほかにも色々な表示があると思いますが,割り切って見てください。

e法廷(e-Court) ~口頭弁論等への本格導入~ #4

 弁論準備手続が終了し,尋問期日が開かれることとなった。尋問期日もe-Courtで行うことができることとなっているが,今回の尋問期日は敢えてe-Courtで行わなければならないような事情もないので,今まで通り,公開法廷で行われる。

 法廷に行ってみると,私の期日の前に,別の当事者の口頭弁論期日が入っていたので,図らずも傍聴することとなった。しかし,この口頭弁論期日はe-Courtで行われているので,両当事者(代理人)とも法廷にはいない。当事者席には大きめのモニタが置かれ,それが傍聴席の方を向いている。そして,各当事者(代理人)の顔がそのモニタに映っている。法廷にはスピーカも設置されていて,当事者(代理人)がしゃべると,その音声が流れる。こうして傍聴するのである。慣れないと変な感じであるが,傍聴に特に支障があるわけではない。*1

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 なお,口頭弁論等をe-Courtで行うか否かは,当事者の意見を聴いて,裁判所が判断することになっている。したがって,裁判所とより直接的にやり取りしたいという場合は,法廷に出頭する旨の意見を述べることになる。法廷に敢えて来たいという当事者の意向を,裁判所が無視するということは基本的にはない。

 改正法では,当事者がe-Courtにより法廷外から期日に参加することが許容されたが,裁判官がe-Courtにより法廷外から期日に参加することは許容されていない。 *2 したがって,裁判官の訴訟指揮の様子は,常に傍聴席から直接,見ることができる。行政訴訟や公害訴訟等,裁判所の訴訟指揮を法廷で直接的に傍聴する要請があるような類型の訴訟でも,e-Courtがその機能を阻害するということは,基本的にはない法制度となっている。

 そうこうしているうちに,前の期日が終わり,自分の番が回ってきた。まずはe-Courtであるがゆえに原本確認できなかった証拠の原本確認を行い,正式に提出扱いとした。その余は,今までとまったく同じである。こうしてみると,e-Courtって何のためにあるのか?という気もする。しかし,おそらくe-Courtで期日を行うことで,期日の実質的な面がより強調され,効率的で無駄のない争点整理が可能となるという点にメリットがあるのだろう。しかし,そうするかどうかは,結局は,裁判官と当事者(代理人)のやる気次第。e-Courtもそれを助けるきっかけや道具に過ぎないことは言うまでもない。

(一応,完)

*1:傍聴の実現方法として,e-Courtで裁判所及び両当事者間で流れている映像と音声を,そのままインターネットで公開すれば良いのでは?という考え方もあります。勿論そうした方が傍聴の実が上がって有益な訴訟類型もあると思います。しかし,多くの訴訟,特に個人が当事者の訴訟においては,日本人の感覚としては,訴訟の内容が全世界に公表されることを望まないのではないか,という気がします。

*2:裁判所が法廷外から期日に参加できる法制度にした場合,非常駐支部でも毎日期日を開催できるというメリットがあり,支部での期日を機動的に開くことができるようになる反面,支部の非常駐化を促進してしまうのではないかという危惧もあり,難しいところだと思います。

e法廷(e-Court) ~口頭弁論等への本格導入~ #3

 次回のe-Courtでの弁論準備期日は,まだ1か月先の予定だが,なんと相手方の代理人から準備書面が提出された。また,当方の主張する事実を真っ向から否定する内容の合意書が証拠として提出された(-_-;)

 すると,裁判官から電話が掛かってきた。

裁判官「相手方から予定よりも早く準備書面が出ましたし,かなり重要な証拠も出ましたので,この証拠に関係する争点だけでも目途を付けたいと思います。予定を変更して次回期日の前に,1回期日を挟んでもよろしいですか?」

私「・・・・うーん,今回の書面の検討も時間が掛かりますし,依頼者から事情を聞かないと,軽々には争点に見切りを付けるということもできませんので,やはり予定どおりの期間を頂けませんか?」

裁判官「・・・・分かりました。しかし,少しでも前倒しで進めたいので,一度,進行協議でいいので,今後の進め方について話し合う機会をe-Courtで持たせてください。」

私「分かりました・・・・」

 何となく押し切られてしまった(>_<) ウェブ会議だと,移動時間がないために,短い時間でも予定を入れることができてしまうので,断りにくい。結局,2週間後に進行協議期日を入れることになった。依頼者との打ち合わせができるかどうか分からないので,進行協議とはいえ,明確なことは言えないだろうけど。まあ,しかし,逆の立場だったら,話が早く進むのは悪い話ではないだろうなあ。*1

(つづく)

*1:これも妄想ですが,こんな風に期日が「ザ・キジツ」という感じから打ち合わせっぽい感じに雰囲気が変わっていくのではないか,と思っているのです。それが良いのか悪いのかは,議論のあるところだと思いますが。

e法廷(e-Court) ~口頭弁論等への本格導入~ #2

 今回は,被告の代理人として受任している事件について,第1回目の弁論準備期日がe-Courtで開かれることになった。双方代理人とも東京の弁護士だが,裁判所から第1回口頭弁論が終わった後,期日間で意見聴取があり,「しかるべく」ということで特段の異議が出なかったので,e-Courtになったのであった。

 e-Courtの利用方法は,当面,書面による準備手続の頃と変わりない。事件毎にウェブ会議にアクセスするためのURLが設定され,事件係属後に裁判所から両当事者に書面で通知される。裁判所と両当事者が期日当日にそのURLにアクセスすると,裁判官と相手方当事者の顔と音声をパソコン越しで確認できるという仕組みである。*1

 本人確認は,今までの方法と変わりがない。弁護士の場合は,特段,本人確認は行われない。まだ,本人訴訟にe-Courtは導入されていないが,本人訴訟にも導入された場合には,最初の期日は出頭で行い,その際に免許証等の本人確認書類で確認をすることになるだろう。

 書面や証拠の直送は,既に導入されている電子メールによる直送 *2 の方法によっている。したがって,双方当事者とも訴状などの直送できない書面以外は,電子データで受領・保管している状態である。ただ,原本を電子データとするという法改正はまだなされていないので,裁判所では相変わらず紙で事件記録を保管している状態である。

 今回も,相手方の訴状が紙で提出され,当方の答弁書準備書面(1)が電子データで提出されている状態で,弁論準備期日を迎えた。e-Courtが始めると,裁判官は,訴状記載の請求原因と準備書面(1)の反論をもとに起案した争点整理案を作成しており,それを裁判所のe-Courtシステムに表示させて,議論が行われた。従前のappear.inのシステムだと,デスクトップ共有の画面が小さくて見づらかったが,裁判所のシステムは,共有したい書面を画面全体に大写しできるので,見やすい。書面が大写しになっているときは,裁判官や相手方の顔は見られない。

 今日の手続は,弁論準備なので,準備書面の陳述や証拠調べも実施できる。当方は準備書面(1)を陳述し,乙号証を提出した。準備書面(1)には押印をしていないので,電子メールで送られている準備書面(1)が真正に作成されたものであることについても陳述した。

 原本の証拠については,カメラに写す形で原本確認を行った。しかし,中には署名や印影等,直接目視しないと確認が難しいものもあったので,そのような証拠については提出扱いとすることを留保し,後日,出頭期日において確認することして,その余の証拠だけ提出扱いとした。

 最後に,次回までの準備事項の確認を行い,次回の期日を入れた。次回もe-Courtによる弁論準備を行うこととなった。移動時間を考慮しなくても良いし,閉鎖空間であれば,必ずしも事務所で出席する必要もないので,当方は出張先の名古屋で依頼者の会議室を借りて出席することになり,次回期日は短い期間でスムーズに入れることができた。

(つづく)

*1:この記事参照。

ahiraoka.hatenablog.com

*2:この記事参照。

ahiraoka.hatenablog.com

e法廷(e-Court) ~口頭弁論等への本格導入~ #1

 今日は,平成34年4月某日。*1 民訴法及び関連法令・規則の改正が完了し,めでたく施行期日を迎え,口頭弁論,弁論準備,証人尋問,和解,審尋等すべての期日をe-Courtで行うことが可能となった。民訴法上「期日」が予定されている手続について,一括して規定が置かれ,裁判所が相当と認めるときには,当事者の意見を聴いて,期日をe-Courtによって行うことができるということになったのである。*2

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 法律等の改正を踏まえて,ウェブ会議を行うためのパソコンの導入及びネットワーク契約が各地の裁判所で進められた。ただ,4年前から書面による準備手続における試行が開始されていて,それに合わせて,裁判所は徐々に設備の導入を進めていたので,口頭弁論等における導入に合わせて一気に導入がなされたわけではない。予算に大きなインパクトを与えないように上手く導入が進められた。

 ただ,ウェブ会議のシステムについては,セキュリティや継続性の問題から,裁判所が独自のシステムを開発した。ただし,いちから開発したわけではなく,使いやすいことで有名な某ウェブ会議システムをカスタマイズしたようである。この裁判所メイドのウェブ会議システムは,完成途中の段階から,一部の書面による準備手続において試験的に使用され,利用者の意見が反映されているので,とても使い勝手の良いものに仕上がっている。*3

 なお,証拠の原本確認や,証人尋問,和解の勧試など,face to faceでやった方がよい手続もあり,かつ,全ての当事者や弁護士がe-Courtに対応できる設備を持っているわけでもないので,全ての期日がe-Courtで行われるわけではない。e-Courtで期日を開くか否かは,最終的には裁判所が判断するが,その際,当事者の意見を聴くこととなっており,例えば「出頭したい」「e-Courtを利用する環境がない」という当事者がいるのに,無理にe-Courtで期日を開催することはない。一方当事者のみがe-Courtに同意しない場合は,その当事者は裁判所に出頭し,他方当事者のみe-Courtで参加するということも可能である。

 当面は,被告が欠席することが多い第1回口頭弁論期日,弁論準備期日などを中心にe-Courtが利用されることになる。必要に応じて,証人尋問期日,和解期日でも利用が広がっていくだろう。また,利用方法の周知などの面から,当初は代理人が付いている事件でのみ運用され,1年後を目途として本人訴訟でも運用を開始するという方法が取られることとなった。

(つづく)

*1:妄想です。

*2:e-Filingについては,いま現在でも民訴法132条の10に提出に関する一括規定がありますね。

*3:アジャイル開発又はプロトタイピングというやつですね。

e提出(e-Filing) ~メールによる直送~ #2

 電子メールでの直送が可能となったので,当事者は,訴状や答弁書で「送達場所」として今までの住所,FAX番号に加えて,メールアドレス(任意記載)を記載することとなった。

 そして,訴訟係属時に,裁判所から,裁判所のメールアドレス(部・係ごとに決まっている)と添付するファイルに掛けるパスワードが記載された書面が渡される。パスワードは,事件毎に決めることになっていて,裁判所,両当事者が共通のパスワードを利用し,第三者に漏えいすることは禁じられている。送付しようとする書面や証拠を圧縮する際に,このパスワードを掛ける。そうすると,もし誤送信したとしても,裁判所と相手方当事者しかパスワードを知らないので,送信内容が漏えいすることはないわけだ。

 ちなみに,圧縮するときにパスワードを付けるためには,Windowsに最初から付いている機能ではできないので,圧縮のためのアプリを使う必要がある。このアプリのインストールや使い方については,裁判所のサイトで学ぶことができるようになっている。弁護士会でも研修が行われた。*1

 受信の確認は,届いた電子メールに返信(裁判所と相手方双方に)することで行う。書面等を送付した側は,受信確認の返信メールが1営業日以上経っても届かない場合は,不着の可能性があるので,受信確認を返信してこない方に対して,電話やFAX等で連絡を取る。

 紙の証拠をスキャンしてPDFにする際の解像度は300dpi *2 以上とされている。何枚もある証拠だったり,カラーだったりすると,ファイルのサイズが大きくなってしまう。したがって,その場合は,何回かに分けてスキャンしたり,送ったりする必要がある。この辺りが電子メール直送の限界である。*3

 それと,準備書面等の書面を送るときには,押印をする必要はないことになった。押印しないといけないとなると,印刷→押印→スキャンという面倒な手間が掛かる。そこで,民訴規則が改正されて,押印の代わりに,陳述時に真正に作成されたものであることを述べるということとなった。したがって,Wordであればメニューの「ファイル」「名前を付けて保存」を選んで文書の種類を「PDF文書」として保存することで,スキャンせずにそのまま送れることになった。

 こうやって全ての事件記録が,相手方の分も含めてPDFで作成・取得できるので,記録の保管が楽になった。裁判所は,法律上,印刷して紙で保管する義務があるが,弁護士としては,もともと電子データで作成・取得しているので,紙で保管するという義務が課せられるわけではない。依頼者から紙で取得した記録を除き,電子データで保管できるので,保管スペースの節約になる。また,裁判所に行くときも,重い紙の記録を運ばなくてもいいので,便利である。もちろん長い書面などを読むときは,印刷して読めば良い。うまく使い分ければ良いのである。

 また,書面を作成するときも,相手方の文章をコピペすればいいので,引用が簡単になった。その結果,認否が書きやすく,漏れがなくなった。裁判所も,当事者の文章を引用して争点整理案を作成したりしているようだ。判決を起案するときも楽だろう。

 なお,電子メールが使えるのは,民訴法上,直送が許されている書面だけである。したがって,訴状,訴えの変更申立書といった直送できない書面は,従来通りである。

 それと,すぐに全ての人が対応できるわけではないので,従来通りのFAXによる直送も可能である。ただ,いずれはFAXによる直送は廃止の方向だということだが。

 しかし,電子メールによる直送が可能になったことで,少なくとも,当事者・代理人にとっては,e-Filingが実現したといっても過言ではない。電子メールで送るだけであれば,今までも多くの人がやってきたことだから,それほど抵抗感はないし,手間も少なくて,今までのように印刷して何部用意してなどとやっていたことを考えると,とっても便利である。

(一応,完)

*1:弁護士会で研修が行われることを保証するものではありません(汗)

*2:1インチあたりの点の数。高いほど細かく鮮明に表現されます。

*3:電子メールに添付して送るのではなく,裁判所がファイルを放り込める場所(サーバ)を用意すれば,こういう限界はなくなりますね。