e事件管理(e-Case Management) ~一部導入~ #2

 裁判所の事件管理ポータル画面には,「自分」の事件のみが表示されている。これは,ユーザー管理がなされていて,弁護士や当事者ごとに付与されたIDでログインしているから実現していることだ。

 e-Case Managementが導入されるまでは,e-Courtを利用するために,事件毎に独自のURLを発行して,事件の関係者以外はアクセスできないようにしていた。このURLにアクセスする者が,真に当該事件の関係者(当事者本人や代理人)であることを確認するためには,事件の最初に写真付き身分証などで確認し,あとは画面に映っている顔や聞こえてくる音声で判断していた。*1

 しかし,e-Case Managementが導入されると,最初に事件の当事者・代理人 *2 になったときに,裁判所に本人確認書類を提出して,ログインIDの発行を受けることとなった。それにより本人確認は済んでいるので,その後,事件毎には本人確認を行う必要はなくなる。

 事件管理ポータルの提供開始に当たっては,ログインIDを他人に使用させないといったことを定めた規則が制定され,利用者がこれらのルールに反すると過料等の制裁が科されることになっている。利用停止は,裁判を受ける権利を侵害する恐れがあるので,慎重な判断が求められる。

 特に弁護士のログインIDを利用停止にすると,仕事ができなくなってしまう恐れがあるので,慎重な運用が求められる。現在,弁護士の懲戒は,弁護士会が独占的に行っており,業務停止などは弁護士会の判断でのみ課すことができる。しかし,裁判所がログインIDの停止を独自に判断できるようになると,懲戒に類似する作用を果たすことになってしまう。そこで,規則において,弁護士に対して過料や利用停止の処分を課す場合は,弁護士会の同意を得ることが必要とされている。

 また,ログインIDの漏えいによる第三者のなりすましや,本人が第三者にログインIDを使用させる事態を防ぐために,登録時に本人の携帯電話番号やe-Courtを利用する場所の電話番号を登録させて,二重認証する仕組みも用意されている。

 なお,これまでの記載でも当然のこととして,当事者本人がログインIDを取得できると書いてきた。これは本人訴訟のときにログインするということ以外に,代理人が付いているときも,当事者本人としてログインして,代理人が追行している訴訟の状況を確認できるということを意味している。今までは,代理人が本人に代わって期日に出席していた。しかし,本人がログインIDを有することとなり,かつ,e-Courtにより期日出席の負担も軽減したので,期日に代理人のみが出席するのではなく,本人も同時に出席することが容易になり,実際にそのような事件が増えている。

 企業の場合は,企業のIDに派生する担当者IDが発行されていて,法務担当者がそのIDでログインし,期日に出席することが可能となる。結果として,裁判官,原告,原告代理人,被告,被告代理人の合計5地点をつなぐe-Courtも行われることとなった。

 e-Court及びe-Case Managementの導入により,当事者本人が,以前よりも簡単に事件情報に触れたり,期日に参加することが可能になり,訴訟の透明性が著しく向上することになったのである。

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 しかし,弁護士であれば誰しも経験のあることであるが,交渉の前面に立つ者として,相手方と腹を割って話さなければ,交渉がまとまらないということもある。そういう場合にも,常に依頼者から監視されているのでは,十分な協議ができない。したがって,裁判官の判断で,5地点をつないでいる回線を,随時,3地点だけをつなぐ様に変更して,当事者を一時的にe-Courtから退席させることも可能な仕組みとなっている。

(つづく)

*1:弁護士に関しては,現在,本人確認など行われていません。e-Courtやe-Case Managementが始まっても,弁護士であればということで,本人確認などしないかもしれません。

*2:弁護士については,弁護士会を通じて一斉登録するということも考えられると思います。